りんごごりららっきょう

思っていること、昔の思い出

タバコと生活の質

初めてお会いした時、

ヘビースモーカーのその男性は1日100本吸っていると話した。

身長も体重もヘビーだった。

丸坊主で50歳前半だった。

入院時の問診中に

なんだよ!

うるせえよ!

びっくりするほど脅されてる感じだった。

若かった私はビクビクした。

抗がん剤の治療で1ヶ月の間に一週間入院する。

その度に、冗談が言えるくらい打ち解けてきた感じがした。

ぶっきらぼうなのは、照れてる裏返しだと分かると

優しい人だということがわかった。

もう、手術はできないくらいがんが進んでいて、残された治療は抗がん剤だけだった。

治療中もタバコは本数減らしても止めることができなかった。

私が新人時代はまだ、病院の一角に喫煙所があった。

私が働いていた病院でも、患者さんたちの憩いの場だった。

 

しばらくはその患者さんも癌の進行を抑えながら生活をすることができていた。

ある時、緊急入院してきた。

最初は足の痺れでおかしいな?くらいだったらしい。

徐々に上に登っていくように痺れの範囲が広がり、入院時は歩けなくなっていた。

検査をした。

脊椎に転移が見られた。

すぐに転移で圧迫している脊椎を緩和するために放射線治療がされた。

しかし、徐々に症状は拡大して手の挙上もできなくなら寝たきりになった。

入院中、幾度となく通っていた喫煙所に行けなくなった。

 

患者さんから、

喫煙所に連れて行って欲しいとお願いされた。

1日100本も吸っていた患者さんが全く吸えなくなるのだ。

急に動けなくなり、どんどん症状は進む。

急にオムツを、当てられプライドは傷つき、急激な病状進行に気持ちはついて行けず。

これからどうなるのだろうという不安に押しつぶされそうになっている。

今まではストレスをタバコで落ち着かせていたに違いないのにそれもできない。

それなのに

あんなにぶっきらぼうなのに看護師に当たり散らすことはなかった。

 

患者さんの気持ちは痛いほどわかった。でも、当たってこないから逆に心配になる。

 

まだ、経験の浅かった私は上司に相談した。

大きな体の患者さんをストレッチャーで喫煙所まで運ぶには

二人は必要であること。

タバコを吸うために介助することは医療者としてよいのか?

カンファレンスで話し合い、1日一回だけとして、

業務が多忙の時は行けないこともあることを患者が理解してもらえればという日課になった。

 

その時に

quality of life

生活の質について考える機会となった。

 

大きな体をストレッチャーに載せるには四人は移動に必要で、

腕が上がらなくなった患者が自分でタバコは吸えないので、

タバコを口にくわえさせ火をつけ、灰をその都度落とした。

 

静かに目をつぶり噛みしめるようにタバコを吸っている患者さんの顔を

私は今も

思い出す。

 

今、タバコは街でもなかなか吸えない。

病院で吸うなんて考えられない。

医療者がタバコの介助をするなんて、今だったら問題になるだろう。

害だと言われているものを援助して摂取させるのだから。

 

でも、カンファレンス中、頭から否定するスタッフはいなかったし、喫煙の援助をしている間に人員不足になる病棟のスタッフの業務調整も考えてくれた。

 

私が最初に働いた病院は、今考えるととても懐が深い。

 

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